スイングのリズムとは?
拙著「禁断のジャズ理論」での付属CDのサンプル・アドリブは、ジャズのみならず、すべての音楽に通用する「リズムのノリ」、「フィーリング」、「センス」を磨くために考え出されものです。
これは、「日本人のためのリズム感トレーニング理論」(2014年 2月7日出版)のデジタル実証版です。
ジャズのノリは、一般にスイング(SWING)リズムと命名されています。
」「これを4beatでやろうよ!」と日本では会話しますが、正確には、”4beat”は、単純に”4拍子”の事です。
世の中の大半は、4拍子(4/4)なので、改めて言われても、、、という事になります。
この場合、「この曲は、スイング・リズムでやろうよ!」と言います。
「ジャズで やろうよ!」と言っても同じですが、ジャズにも3拍子(WALTZ)がありますから、やはり、スイング・リズムでしょうか。
スイング・リズムの特徴は、8分音符にあります。
通常の8分音符は、DODO(ドゥドゥ)あるいは、ターター、ターターと言う感じで、2つの8分音符を同じ長さ、均一(even)に弾きますが、スイング・リズムの場合は、これが、DOOT, DOOT(ドゥートゥ、ドウートゥ)、と言う弾き方になります。
一般的に簡単に言うと、3連符の真ん中の音符を抜いた弾き方になります。
しかし、実際、そういう気持ちで弾くと、日本人特有の”ハネている”ノリになってしまいます。
日本の民謡にありがちなノリですね。(え~らいやっちゃ、え~らいやっちゃ)
スイング・リズムのハネ(BOUNCE:バウンス:はずむ)とは”似て非なるもの”です。
日本にも、こうした”似て非なるリズム”があるために、日本人は混同してしまうわけです。
スイングのリズムは、別名、SHUFFLE(シャッフル:ひきずって歩く、トランプを切る)というリズムと同じです。
BOOGIE-WOOGIE(ヴギウギ)というジャンルの音楽のリズムもこのノリです。
日本人が苦手なのは、前述のように”似て非なるリズム”がすでに脳に記憶されていたり、日本語自体にこのリズムの単語がないからです。
(「もっし、もっしカメよ~カメさんよ~」「あっめ、あっめ、ふっれ、ふっれ、かっあさっんが~」など)
BOUNCEと”ハネ”との違いが、感覚的にわからないと、たとえリズムマシンにスイング・リズムを打ち込んで見ても、やはり”ハネている”状態になります。
(いくつか、アマチュアのDTM[Desk Top Music]でのジャズ風サウンドのデジタル音楽を聴きましたが、ハネています。
このスイングのリズムを甘く見ているのでしょう!日本人が一番、苦手としているリズム、という事実を知らないのだと思います。
お金持ち国の若者、という感じ?ドラえもんのスネ夫?
この「禁断のジャズ理論」では、デジタルな打ち込み演奏で模範演奏を作成していますが、この打ち込みもかなり感覚的な打ち込みです。
「ダメダメ、その最後の音符、もう少し、遅く、もう少し強めに!」と言った調子で、微調整しています。
これは、数値化できません。
前後の音符の流れで決まるからです。
しかし、できるだけ”中立”で、無個性なスイングのリズムにして打ち込みを行っています。
スイングのリズムは、「一応、これも日本語だろう」、あるいは、「これも英語だけど」という様々な地方も総括して存在していますから、個人個人、それぞれの特徴はあるわけです。
一律のものではありません。
こうした中で、「それは日本語じゃない!」「これは英語じゃない!」というものがあるように、「これは、スイング・リズムじゃないよ!」というものがあるわけです。
すべての音楽に共通する「メージャー・スケール(長調音階)」と「ブルーノート・スケール」を通して、音楽のセンスを磨きます。
どんな複雑な音階を利用してジャズのアドリブをしても、リズムやセンスの悪い人の印象は変わりません。
まずは、根本的な基礎センスを身に付けましょう。
本書をマスターする事で、ジャズはもちろん、ロックやブルース、ポップスに通じるセンスも身に付きます。
例えば、複雑なスケールを駆使して演奏するジャズの世界で、長年、ナンバーワン・ギタリストの名声を得て人気だったジョージ・ベンソンは、1976年の大ヒット曲「ブリージン」で、世界のポップ・シーンの大スターともなりました。
「ブリージン」は、Dのキー(ニ長調)で、コード進行も単純で、よくある、DM7 B-7 E-7 A7の繰り返しです。
俗に、1625(I VI II V)進行と呼ばれるコード進行です。
これをジョージ・ベンソンは、Dのメージャースケール(ニ長調)とブルーノートスケール(D BLUE NOTE SCALE)だけでアドリブして見せて、狭~い、暗~い、地下室のジャズ界から飛び出し、世界のポピュラー音楽の大スターの仲間入りを果たしました。
ちなみに、フォークシンガーのさだまさし氏は、自主ドキュメンタリー映画「長江」(1981年11月公開)のための過酷な中国ロケでは、言葉の通じない中国人の中、常に、この”ブリージン”を聴いてストレス解消していたと言います。
あまりにも従来のジョージ・ベンソンのジャズとは、正反対(?)ともいえる”さわやか”な1曲で、世界を仰天させた、と言っても過言ではないでしょう。
複雑なスケールを使用してアドリブをしているから凄い、というわけではないんですね。
ジョージ・ベンソンは、そもそもの「センス」と「フィーリング」が他のジャズ・ギタリストと段違いなんですね。
難しいスケールが弾けるから、というジャズ・オタクが分析する話しではないわけです。
*Breezin’ – George Benson studio version :
https://www.youtube.com/watch?v=14pitnJlcv4
「禁断のジャズ理論」は、この演奏から、アドリブの本質を分析して生まれたテキストです。
これは㊙事項で、ここだけの話ですが、、、
「禁断のジャズ理論」は、メージャースケールを多用しているように見えますが、実際は、それぞれのコードに合わせて、”ある理論”を元に、フレーズが形成されています。
おそらく、一流プロが譜面を見ると、「あっ!こ、これは、、、」と気づくはずです。
なんでもいいから、メージャースケールでアドリブすればいいんだよ!、という事にはなっていません。
マスターしてから、わかる事が、武術的にも”奥義(おうぎ、おくぎ)になります。
根本的学習、音楽理論にだまされるな!
サンプルCDは、ありますが、これは、英語学習も同じです。
英語学習では、いくらサンプルの発音を聴いても、実際には、ネイティブスピーカーの指導者による「L」と「R]の発音のダメ出しがないと、できているのかできていないのかは、全くわからないものです。
それと同じような事が言えるのが、音楽の学習者と指導者の関係です。
また、メージャー・スケール(長調音階)だけ、と言っても、ジャズの複雑なスケールは、メージャー・スケールを1音、2音変えるだけで、通常のジャズ・スケールになってしまいます。
たとえば、メージャースケールの7番目のシの音を半音下げる(♭)だけで、”ミクソリディアン(MIXOLYDIAN)という大それた名前のスケールに出世?します。
ついでに第4音目のファの音を半音上げる(♯)するだけで、リディアン♭7th(LYDIAN ♭7th)という、これまだ大それた名前にさらに昇級?昇段?します。
メージャースケールと大した違いでもないのに、1,2音変わっただけで、その人の”センス”、”フィーリング”はもちろん、根本的な”リズム感”、”ノリ”までも変わると思いますか?
様々な大そうな名前で、高尚?そうなスケールを学ぶ事で、自分のアドリブが、一流ミュージシャンに近づく、と思っているのが、”知識オタク族”です。
漢字を多用すれば、高尚な文章が書ける、と思っている”感じ”でしょうか?
それなら、中国人は、み~んな高尚な民族となります(英語を高尚と思っていたら、英米人は、み~んな高尚民族?)
スケールが高尚になる前段階の母体が、メージャー・スケール、というわけです。
こうしたスケール理論のトリックにも惑わされない事が、ジャズ学習にとっては、重要なポイントです。
ロックギタリスト、エリック・ジョンソンのジャズ演奏
米国のロックギタリストのエエリック・ジョンソン(Eric Johnson、1954年8月17日 – )は、2コ(学年)上の未来型ジャズ・ギタリストのマイク・スターン(Mike Stern、1953年1月10日 – )との共演アルバムでも有名です。(ECLECTIC:2014年)
ロック界とジャズ界の人気ギタリスト二人の初の共演です。
これは、そもそもエリック自身がジャズも好き、マイク自身もロック好き、という二人の嗜好性もあったから実現したコラボでした。ジャンル的には”フュージョン”(FUSION:融合)”というジャンルに入るでしょう。
エリックは、ロックに飽き足らず、近年は、な、なんと!ジャズ・スタンダードの曲も取り上げて、自分流に弾いています。
ジャズ界のテナーサックスの偉人、ジョン・コルトレーン(John Coltrane, 1926年9月23日 – 1967年7月17日)の演奏で有名な「ミスター・ピーシー(MR.PC)」という曲は、12小節のマイナーブルース。
オリジナルのキーが、Cmのキー(ハ短調)のところを、Dmのキー(ニ短調)に移調してエリックは、コンサートでも演奏しています。
しかも、ちゃんとしたスイングのリズムで、です。
ジャズのリズムと言っても、速いテンポで演奏すれば、BOUNCE(バウンス:はずむ)要素は消え、均一な(イーブン:even)な8分音符の弾き方になります。
この方式でのジャズ演奏は、ロックギタリストにも扱い易くなります。
スイング・リズムが苦手な日本人もこの方式で、速いテンポを中心にやるようになってはいます。
近年は、このように、BOUNCEが消える傾向にはあります。私は、このはずむバウンスする8分音符を”黒人なまり”と命名したりしています。白人音楽にはなかったリズムです。
エリックが演奏しているこのマイナーブルース”ミスター・ピー・シー(MR.PC)”の12小節のコード進行は以下。
/Dm / Dm /Dm / Dm /
/Gm/Gm/Dm /Dm /
/B♭7/A7 /Dm/(A7/
エリックを始め、ロックバンドのメンバーも自由に、自分なりにアドリブしています。
私の”禁断のジャズ理論”の方式だと、極端に言えば、F(ヘ長調)のメージャースケール(長音階)だけでも行けるでしょう。
(各コードのルート音、ベース音を見て下さい。すべてヘ長調の音階の音です!だから、その上のコードは多少は無視できるわけです。もちろん、きっちり、その違いを弾き分けるのもいいでしょうけど、どちらも”間違い”ではありません。)
それは、けっして、過去の誰かの演奏を真似しよう、という気持ちではなく、メンバー全員が、自分たちなりのやり方で対応をしているわけです。
これからのジャズのアドリブ学習とは?:物真似芸の考察
ジャズのアドリブを学ぶ、という事は、古典的フレーズの暗記大会ではないのです!
暗記大会になるから、日本の暗記上手な子供たちが簡単にマスターしてしまうわけですが、基本的に、それは、”そっくりさん”大会にしかなりません。
(チャーリー・パーカー(Charlie Parker Jr. 、1920年8月29日 – 1955年3月12日)そっくりさんなど。ロックは、ほとんどが、そっくりさんですが、、、)
しかし、早くで”そっくりさん”になった子供は、なかなか、そこから抜け出る事はできません。
そのやり方でアドリブするのが”手癖”になっているからですね。
”アドリブ”というのは、楽器の技術ではありません。楽器を使っての”喋り方”であり、”喋る内容”なのです。
やればやるほど、手癖は強化されますから、そこから抜け出せなくなるわけです。
これは俳優の演技での喋り方でも同じです。
いったん付いた癖は、なかなか取れません。
しかし、それが、その俳優の特徴にはなるわけです。
俳優の場合は、それが、その人の個性ともなりますが、物真似芸は、それは、その個人の個性ではなく、元のオリジナルのミュージシャンがいるわけです。
昔は、なかなか本物に出会えませんでしたから、そっくりさんは、重宝されましたし、また、その芸を再現できるほどの技術を取得した事を称えたものですが、今や、YouTubeチャンネルで本物を簡単に見る事ができるようになりました。
ロックバンドのコピーバンドのプロもわずかですが、存在します。
それは、基本的には”アーティスト”や”ミュージシャン”というよりも、プロの”エンタテイナー”です。
念のために、付け加えると、私自身は、古典を否定するわけではありません。
古典を学ぶのは、本人の密かな戦略として学べばいいわけです。
けっして、それを全面に出し、そっくりさん大会が主流になるべきではありません。
私自身も密かに真似している古典的ジャズがありますが、それはプロとしては、”企業秘密”なわけです。
私自身が密かに信奉して来たモットーとして「一人の人から学ぶことを”盗作””といい、多くの人から学ぶことを”研究”という」という言葉があります。
この言葉も企業秘密として来ましたが、、、。
みんなが、同じ人を模倣して学んだ結果は、どうなるか?
これは、”同族同士”の結婚ですよね!?(****婚?)
それが、従来のジャズです。
音感も無く、ジャズも知らない人から見ると、”ジャズは、ひたすら連続して音を弾いている音楽”(8分音符の連続?)という印象しかないでしょう。
個々の音の区別も絶対音感のある人のようにはつきませんから。
また、真似する偉人もみんな同じで、相変わらず、お爺ちゃんたちと、同じものが趣味なわけです..
ジャズ・アドリブの条件:ジャズの共通語、標準語
JAZZというのは、本来、「アドリブが、かっこいい!」と言われればいいわけです。
NHKのアナウンサーのように、みんなが”共通語”、”標準語”を話す必要はないのです。
”標準語”が、東京の山の手の言葉を真似た言語、というなら、チャーリーパーカーを真似たアドリブが”標準アドリブ”という事になるでしょうか。
”共通語”は、全国に通用するように作られた、NHKのアナウンサーのような言語です。
どこの地方の出身かはわからない言語です。
ロックでいえば、ヘビメタ(HEAVY METAL )やメタル(metal)のギタリストのアドリブが、”共通アドリブ”と言えるかもしれません。
このように、ジャズのアドリブは自由です。
しかし、最低限のルールと条件があります。
まず、「個々のコードに合う音階でのアドリブ」というルールですね。
ジャズは転調が目まぐるしいコード進行ですから、ロックのように一本のスケールだけ対応できません。
転調が多いと、「あれ、あのギタリスト、音が外れていないか?」と、歌でいう”音痴?”な箇所が出てしまうからです。
速いテンポの曲は、コードもあっという間ですから、多少は誤魔化せますが、バラードのようなスローなテンポは、外れまくりますから要注意!です。
歌手の伴奏だと、とんでもないクレームが来ます。
こうした事を回避するために和音と音階の関係の理論を学ぶわけです。
この”お勉強”が、面倒くさいわけですが、実際は、私の本「禁断のジャズ理論」のように一本のスケールでも対応できる曲もたくさんあります。
エリック・ジョンソンのように難しいレベルの曲を弾かなければいいわけです。
(しかし、このエリックの演奏は、未来型ジャズに大きな貢献をしています!)
次に大事な事は、”かっこいい!”アドリブをする事です。
アドリブの際、和音にいくらアドリブする音は当たっていても、”つまらない!”とか、”カッコ悪い!”と思われてしまったら意味がありません。
そのセンスを磨くために、古典作品から学ぶわけですが、一流と言われる人は、やはりオリジナリティが素晴らしく、簡単には、誰を真似たのかわかりません。
その代表が、ジャズ・ピアニストのキース・ジャレット(Keith Jarrett、1945年5月8日 – )やチック・コリア(Chick Corea、本名:Armando Anthony Corea、1941年6月12日 – )。
ジャズ・ギタリストのジョン・スコフィールド(John Scofield、1951年12月26日 – )やビル・フリゼール(Bill Friell、1951年3月18日 – )、フュージョン系では、フランク・ギャンバレ(Frank Gambale、1958年12月22日 – )などです。
彼らは、簡単には、その影響ルーツがわからないほど、様々なスタイルの要素が入り込んでいます。
他のジャズ・ミュージシャンのように”伝統的”な要素がかなり薄いので、大半が、自分流だと思います。
だからこそ、彼らのジャズスタイルは、自由と創造力に満ちているからこそ、スリリングに感じるのでしょう。
創造力よりも前に、まず、暗記すべきフレーズが膨大にある、というものは、すでに終わったコンテンツ(オワコン)と言われても仕方ありません。
さあ、ジャズを、また、あなたの力で、新たなジャンルにするために創造し、作り変えましょう!
私は、これを”未来型ジャズ”と呼んでいて、この思いを”禁断のジャズ理論”に込めたつもりです。
あとは、良い師匠を選んで、たくさんのダメ出しを受けて下さい!
Twitterより:「禁断のジャズ理論」#
友寄隆哉@tacker1959#著者解説シリーズ7#禁断のジャズ理論#ジャズはオワコン と言われる原因はジャズの老化です。ジャズに興味を持った若い世代が、お爺ちゃん愛好家と同じ嗜好なら未来は何も変わりません
文学ならいつも #夏目漱石 から? 少しずつ新たなものが加わるから常にその時代の若者を魅了するのです
2020 11月1日、改訂版